精神科の世界と聞くと、「難しそう」、「ちょっと怖いイメージがある」と感じる方も多いかもしれません。
それで「もしかしたら精神科や心療内科に行ったら気持ちや身体が楽になるのかな?」と思っても、なかなか初診に踏み出せなかったり。
そもそもどんなことをしてもらえるのか、どんな悩みが解決できるのか、漠然としたイメージすら浮かばないかもしれません。
実際の看護師さんでも、「一般科の経験はあるけど精神科や心療内科はわからないので不安…」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし実際の現場は、悩みや生きづらさを抱える人に寄り添い、その人らしい生活を支える温かな営みで満ちています。
今回は、精神科医療や看護を題材にした漫画の中から、スタッフが「これを読むと精神科や精神科訪問看護が身近に感じられる!」とおすすめできる3作品をご紹介します。
おとずれナース~精神科訪問看護とこころの記録~(完結済み/全4巻)
精神科訪問看護をテーマにした、数少ない漫画作品です。
主人公の看護師は、患者さんの自宅を訪問し、服薬の確認や生活の支援、そして「ただ話を聴く」ことを通じて信頼関係を築いていきます。
時には症状が強く出てしまう方や、家族関係に悩む方と向き合う場面もありますが、決してドラマチックな出来事ばかりではありません。
日常の小さなやりとりの積み重ねが、人の回復や安心につながることを丁寧に描いています。
訪問看護に興味がある方には特におすすめしたい一冊です。
私は特に、1巻の「孤独死」のエピソードが好きです。
「孤独死」と聞くと、寂しいお亡くなり方だと思い浮かべる方も多いと思います(20代の私もそうです)。
ですが、この漫画では「最期は独りでも、生前愛されて遺された人たちの中で想い出話に花が咲く」のは「孤独死」ではない、という描かれ方をしていて、いいなと感じました。
2巻以降では「引きこもり」、「ヤングケアラー」、「老老介護となる配偶者の認知症」など、「ご病気や症状で苦しむご本人だけでなく、そのご家族さまも訪問看護を通じて支える」という面も描かれています。
こころのナース 夜野さん(完結済み/全6巻)
こちらは訪問看護ではなく精神科病院(入院病棟)で働く看護師・夜野さんが主人公の物語。
しかしながら訪問看護に行くエピソードもありますし、同僚の男性ナースの方は訪問看護がメインのお仕事をされています。
患者さんと看護師とのやりとりを中心に描いており、現場での「医療者側と患者」という立場の違いや葛藤、やりがいがリアルに伝わってきます。
精神科の看護師は「薬を管理する人」ではなく、患者さんの心の声を受け止め、時に寄り添い、時に距離を保ちながら支援していきます。
夜野さんの温かいまなざしや、仲間とのチームワークに触れることで、「精神科で働くってどういうこと?」が自然と理解できる作品です。
はじめて読んだ「精神科」を舞台にした漫画作品がこちらでした。
夜野さんは、社会人から看護師を目指して、一般科を経ずに精神科に勤務することになった看護師さんという設定ですが、何年か病棟勤務をしているうちに「こういうときはこう言えばいいんでしょ」と型にハマった対応をしてしまったりと、「看護師のキャリア」という悩みや立ち塞がる壁も描かれています。
看護師さんの目線で読んでも、「わかる…」となるのではないでしょうか。
Shrink~精神科医ヨワイ~(連載中/既刊16巻~)
こちらは看護師さんではなく精神科医が主人公で、新宿に「ひだまりクリニック」という小さなクリニックを営んでいる「弱井先生」が主人公です。
うつ病や発達障害、パニック障害など、多様な症例に向き合う姿が描かれています。
特徴的なのは、患者さんの症状だけでなく、「診断までの過程」「治療に伴う不安」「診断後の社会との関わり方」まで丁寧に描写されている点でしょうか。
読めば医師と患者双方の視点を通じて、精神科医療の奥深さや社会課題に触れることができます。
医療従事者だけでなく、一般の方が読んでも「精神科は何も特別な世界ではない」と実感できる一作です。
「病院に行くまで(病気に気づくまで)」から「病院に行ってからのその後」が丁寧に描かれているので、「病理診断はゴールではなくスタート」である、ということも印象的な漫画です。
また、「ひだまりクリニック」の看護師である雨宮さんや、精神保健福祉士の岩国さん、地域の保健師の日向さんなど、様々な立場の方が関わり、地域で協力し合う「医療・看護」が描かれているのもポイントです。
こちらは数話完結のエピソードが中心(メインとなる地続きのお話もあります)なのですが、特に「発達障害(1~2巻)」、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)(3~4巻)」と「アンガーマネジメント(11巻)」のお話が好きです。
1つ目の「発達障害」のお話は、大人になってから「発達障害(ASD)」と診断された女性が、医療を通じて自分のストレスとなっていた母親(実家)から独立し、障害者雇用で転職をし明るく前向きに進んでゆく、というお話です。
まさに、「病理診断はゴールではなくスタート」というエピソードで印象に残っています。
2つ目は東日本大震災を宮城で経験しトラウマを抱えた青年が、ひだまりクリニックに通うことでそのトラウマと向き合っていくお話です。
東日本大震災当時の活動も描かれており、「未曾有の震災という大きな傷を負った地域で、地域で支える医療・看護」が生きて根差している、という今まさに目指されている地域医療の姿が描かれているのが印象的でした。
あとわんちゃんがかわいいです(重要)。
3つ目は、若手社員との関わりに悩む壮年の男性のお話です。
こちらは特に病理診断はなく、「怒り」との向き合い方を精神科に通うことで知っていくエピソードです。
お恥ずかしながら、私もこのエピソードの主人公の男性の意見に「わかる~~!!!」となるところも多く、たくさん勉強になりました。
精神科や心療内科は「心がしんどい」「生きづらいと感じて困っている」方に門戸が開かれている、というのも良いですね。
まとめ
今回ご紹介した3作品は、それぞれ異なる立場(訪問看護師・病棟看護師・精神科医)から精神科を描いています。
共通しているのは、患者さん一人ひとりの人生や想いに丁寧に寄り添う姿勢です。
漫画を通して精神科医療のリアルな一端を知ることで、「精神科に関わる仕事をしてみたい」「自分や家族のことを相談してもいいかもしれない」と感じるきっかけになるかもしれません。
まずは気軽にページをめくってみてください。
きっと新しい発見がありますよ。
